一九八五年初めの頃、あるウイークデーの夜だったと思う。
家でくつろいでいると電話のベル。
当時二歳だった娘のAが出て、「パパ、W・Pという人からよ」と一言う。
てっきり、いたずら電話だと思った。
とにかく出てみると、相手は、「オマハのW・Pと申します」と、他のP氏と取り違えられないように、とでもいうような口ぶりだった。
「今あなたのご本を読み終わったところです。
たいへん気に入りました。
実は、この本の一部をPの年次報告書のなかで引用したいのです。
彼の頼みは直ちに了承した。
五分から一O分も話した後、最後に彼が、「オマハに来て私の所に寄らなかったことがわかったら、君はネプラスカ中の鼻つまみということになるからね」と言ったことを覚えている。
もちろんそれは困るので、その六カ月後には、その申し入れに従って彼を訪ねた。
彼は自らオフィスの隅々まで案内してくれた。
もっとも、全部でテニスコートの半分足らずのスペースだから、長くはかからない。
全部で二人の従業員に挨拶した。
コンピュータや株価表示の端末などはまったく見当たらない。
一時間ほどそこにいて、それから彼の案内で土地のレストランへ行き、結構なステーキをご馳走になった。
三O年ぶりにチェリー・コークを飲んだ。
子供の頃のアルバイト、野球、ブリッジのことなど、それから、それまでに二人が投資した企業についての話題に移る。
彼はP(彼は自分の会社をPと正式名で呼んだことはない)が保有する株式、同社の業務について説明し、質問に答えてくれた。
W・Pが史上最高の投資家とされるのはなぜか?個人として、投資家として、あるいはオーナー経営者としての彼は7 また、P杜の年次報告書には何か特別なものがあるのか?彼がそれほどの力を注ぐ理由は?報告書から得られるものは?こうした数々の疑問を解くために、私は彼から直に話を聞くと同時に、過去五年余の年次報告書を読み直し、また彼が同社の会長職に就いた最初の頃(一九七一年と七二年版。
わずか二ページのものだった)の報告書にも目を通した。
加えて、いろいろな面で過去四年から三O年以上にわたって彼と密接なかかわりのあった人たちの話も聞いた。
彼の資質については、誰に聞いても同じような答えが返ってきた。
まず第一に、非常に熱心だ。
何でも手を染めたことには入れ込んでしまう。
いろいろな人と会い、年次あるいは四半期ごとの報告書の山に目を通し、数え切れないほどの新聞、雑誌類を読みこなす。
投資家としての彼は、きちんとした投資哲学を持ち、忍耐力、柔軟性、勇気、自信、そして決断力を併せ持つ。
求める投資対象は、リスクがないか、あるいはあってもごく小さいものである。
しかし、同時に彼は、確率、賭け率といったものにも強い。
たぶんこの能力は、もともと彼が簡単な算術の計算を好んでいたことや、ブリッジに熱中して、それにも打ち込んできたことなどからきたものに違いない。
また彼には証券引き受け業務の豊富な経験があるし、保険、再保険など、高いリスクを負った仕事にも携わってきた。
予期すべき損失の可能性が低いのに比べて、大きな成果を期待できるときには、リスクを冒すことをいとわない。
失敗や過失を数え上げることはしても、それについて言訳はしない。
むしろ自らを茶化して楽しんでいるように見えるが、同僚の仕事に対しては実質的な形で報いてきた。
Pはビジネスの優れた学徒であり、よい聞き手でもある。
企業について、あるいは込み入った案件についても、すばやく、そして正確に問題点を明らかにしてみせる。
二分間足らずのうちに投資不適格の判断を下せるし、わずか数日間の調査の後に、莫大な投資に踏み切ることもしてきた。
彼にはいつでも用意ができている。
年次報告書のなかで自ら言っているように、「ノアは雨が降り出してから箱舟をつくり始めたのではないよ」ということだ。
ファンドの運用者としては、彼が企業の事業本部長クラス、あるいはトップ経営者などに電話をかけることは、ほとんど皆無と言ってよい。
ただ彼らのほうから報告ないしは助言を求める電話があれば、どんな時間であってもそれは歓迎である。
株式の一部、あるいは全部を買い入れた企業について、発寄せては、Pは応援団長と顧問を兼ねたような存在である。
彼は、ている。
野球にたとえて次のように言う。
Pでは、四割バッターに対してスイングに注文をつけるようなことはしないよ」スピーチ術とコンピュータ使用法習得への取り組み。
この二つの例を見ても、彼が並々ならぬ向学心と、何にでも適応していこうという強い意欲の持主であったことがうかがえよう。
一九五0年代に、彼はデール・カーネギーの講座を受講している。
演説の際に膝頭の震えを止める方法ではなく、膝頭が震える状態で演説する方法。
というのがその講座名で、受講料一00ドルを投じている。
Pの年次総会では、C・マンガーとともに、二OOO人の聴衆を前にしての壇上で、メモも事前の打ち合わせもなしに質問に答える。
そまた一九九四年の初めには、もっとブリッジをやりたいがために、コンピュータの使用法を学んでいる。
全国ネットワークを利用した各地の同好者とのプレーに加わるためであった。
たぶん近い将来には、投資情報サービスが提供する企業のデータ、情報収集に役立てることにはなるだろう。
Pは、投資についての最も重要な要素は、企業の実質的な価値を確定したうえで、適正な価格、あるいはそれよりも割安な値段で買うことだと強調する。
現在または将来の株式市場全体の動きなどはどうでもよいという。
彼はCの株を、一九八八年と八九年に一O億ドル以上を投じて買い入れている。
同社株は、すでにその直前の六年間で五倍、六O年聞をとれば五OO倍にも値上がりしていたのである。
ところが彼はこの投資によって、その後の三年間で、その投資額を四倍にした。
今後も、五年、一O年、二O年にもわたって、この株でもっと儲け続けるつもりだという。
また一九七六年には、G社の株を買い入れて大株主になっている。
同社株が六一ドルから下げ続けてついに二ドルとなり、大方の見方では株価ゼロになるのは必至とされていたときである。
それでは、どうしたら一般の投資家がPの投資術を取り入れることができるのだろうか。
とにかく彼は、自分が理解できない業種や、自分が強くない分野には手を出さない。
これはすべての投資家にもできることだろ、1時間をかければ、自らが仕事のうえで関係があるか、あるいは進んで調べられる業種のなかに得意の分野を見つけて、それを広げ、深めることができるだろう。
的中率は、それほど高くなくてもよい。
「四O年の経験のなかで、重大な成果をもたらしたと言える決断を下したのはわずか一二回を数えるだけだ」と彼は言っている。
持株を数社の株式に絞れば、リスクを大いに軽減できる。
ただし、絞ることによって、調査がより慎重に、そして完全を期して行なわれること、という前提がつく。
パークシャーの普通株の保有額は、その七五%を超える部分がわずか五銘柄で占められているのが常態である。
本書で数回にわたって明確に示されている方針の一つに、一時的に業績不振に見舞われているか、あるいは株式市場全般の不振によって株価が割安になっている企業、それも優良企業に投資すること、というのがある。
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